この本を、読んだのは発刊から間もない頃のことだった。ジョーンズの「フロイトの生涯」を読んだ後に、ユングの伝記があればと思っていたが、当時は著作集は有ってもめぼしい伝記は無かった。しかも、ユング著作集は、一種の特異な世界からの手紙のように取っ付き難く、フロイトの「文化の不安」や「モーセと一神教」のような、問題意識に溢れてはいるが、或る意味での明快さを持ってはいなかった。其処に出て来たのが、この自伝であり、なけなしのお金を叩いて買い求めた。故に、心理学の入門書としては読んではいない。
読んで見て、先ずそのビジョンに驚かされた。幼少の頃からの思い出を書きながら、彼は、父や母の内面、本人達も気付かぬ、意識下の幾つかの性格を見抜いている様な、少年であった様だ。この自伝に書き込まれた、一種の予知感覚には、驚きを隠せない。どうも、母方から霊媒の素質を受け継いでいるらしい。小学校の頃ユングは、ひどい劣等生であり「こういう事は、良くある事で、極めて個性的な才能を持つ場合、厳格で画一的な教育には、適応不全を起こす者が多い、ダーウィン・アインシュタイン・ウイトゲンシュタイン・エジソン・ボーア、軽重は有るが、数えればきりが無い」両親が、カールの学業を心配する話を盗み聞き、本人は深い衝撃を受ける。
その様な少年期から青年期にかけてユングは、段々に精神的にも知能的にもたくましく育ってゆく。
ユングの内面では、この辺の事情も、意識下で大きな影響力を持っているのではなかろうか?
自伝を読んで行くと、そのビジョン、夢、幻影は恐ろしいくらいの原始的心性を帯びているようにも思える。強力な合理的知性と霊媒の能力が一体となり得れば、このビジョンの解明が可能なのか?
仏教の説く死生観にもユングは関心があったようだ。
とにかく、この世界の隠れたビジョンに関心の有る方はジックリ読んで見る事がよいと思います。