新潮文庫に収録されている『若い芸術家の肖像』の主人公、スティーヴン・
ディーダラスの話から本書は始まる。カレッジを出た彼は学校の臨時教師を
つとめつつ、いまいちイヤなやつマリガンと同居している。スティーヴンは、
信仰の問題から母の臨終の願いを拒んだことで良心の呵責を感じている。
一方、途中から登場の主人公レオポルド・ブルームは広告とりのユダヤ系の男。
歌手の妻モリーがいて、娘は15にして早くも働きに出ている。
1904年6月16日というたった一日の話である。スティーヴンはマリガンとの
会話・食事を経て、散策しつつ学校に給料をもらいに行き、新聞社にいって
飲みに誘う。
ブルームは朝食をつくったりしたあと、街へ出て、手紙を読み、風呂屋へ行き、
友人の葬式に出席し、新聞社へいき、仕事のために図書館へむかう。彼は、
今日の午後家をたずねてくるというボイランがモリーと寝るのではないかと
感じている。
朝から午後1時までの物語。それでもうこの厚さである。手が痛くなるぐらい。
物語自体はダブリンの一日で、まだビッグなことは何も起こらない。
会話も多く物語の筋は追ってゆけるが、難解なのは「内的独白」。
普通に、一貫して悩んでいることなどを書いてあるのならわかりやすいのだが、
この作品では、街を歩きながら、人に会いながら、次々に心に浮かぶことを
そのまま記述しているのだ。とりとめもない頭の中の思いを、すべて書き綴った感じだ。
こういうわけで「意識の流れ」と呼ぶのか!と、文学史でいやというほど
習った事柄がやっと実感として納得できた。
巻末には本一冊ぶんくらいの訳注(よくまあここまで調べたものだ)と、
ジョイスの年譜、登場人物解説、ダブリン地図つき。