白川静先生(1910―2006)ご自身の高橋和巳論「蓬山遠し」をはじめ、梅原猛氏の「奇人たちの遊興」、高島俊男氏の「両雄倶に立たず―白川静と藤堂明保の『論争』―」など、おおよそ20篇の秀作をおさめる面白い、おもしろい充実の一冊です。『ユリイカ』の「白」の強調された上品な表紙も素敵です。
白川先生が『漢字―生い立ちとその背景―』を一般読者向けにわかりやすく岩波書店から出してくださったのは1970年のことでした。ちょうど大学紛争の中、わたくしたちが恩師を学園から失いながら卒業した年でもありました。白川先生には1984年に最初の論文評をお願いしたおりにお手紙を頂戴し、以後、亡くなられるまで「今まで誰もやらんかった領域ですわな」と拙い研究を励ましていただきました。
本書についてひとつ希望を言わせていただけるなら「白川静略年譜」の中で1913年生まれの奈良本辰也、1914年生まれの林屋辰三郎両先生に加えて、1909年生まれの北山茂夫先生のお名前を加えていただきたかったという点です。1909年のところは無理でしょうから、せめて1970年の「一般書『漢字』を書き下ろす」のところで「元立命館大学教授北山茂夫の推薦により」をいれてほしかったと思います。なぜなら北山・奈良本・林屋の3先生は当時の学界を牽引した「在野史学の雄」であり、一時代を創り上げられた「3巨頭」であり、大切なお一人を欠かすことは道理にかなっておらず、このままでは歴史の風化にもつながると思うからです。何よりも白川静先生ご自身が『漢字』末尾において一年年上の北山茂夫先生に対し深い深い感謝の意を表しておられるのですから、今後は意をくんで下さるようよろしくお願いいたします。
本書がひとりでも大勢の方々に読まれることを願ってやみません。 頓首