「ユダの福音書」が公開され、和訳も上梓されて以来、ユダが一種のブームのようになり、この発見がキリスト教の教義を塗り替えるかのような印象を与えつつある。確かにユダが実はイエスの密命を帯びていたというのは衝撃的な内容ではあるが、これはグノーシス派の文書である。グノーシスの教義においては神とデーミウールゴスにおける極限の価値逆転が行われているのだから、ユダの評価の逆転などはそう驚くに足りない。本書はそういう皮相な視点と一線を画し、聖書の四福音書の」記述を丁寧に辿り、さらにユダ福音書をそれに重ねることによって受容されるユダ像の変化を跡づけたものである。さらに、ユダの図像学を豊富な図版とともに併録しているのもありがたい。ナグ=ハマディ文書の翻訳出版でも著名な荒井氏ならではの細かい釈義や、「原典」で翻訳されている内容についての疑義なども読んでいて興味深いものがある。じっくりと読むのに適した本である。