モーパッサンは世界屈指の短編小説家として名を馳せ、チェーホフやO・ヘンリらの偉大な先行者となった。が、一時期のフランスの文壇では長編小説至上主義が横行しており、まったくモーパッサンが評価されない時期があったという。
だが、この短編集を読む限り、そのような評価は不当と叫ばざるを得ない。本書に収められた短編はすべて、作者の思想をふんだんに盛り込みながらも物語としてきちんと構成が整っており、作劇の見本としたい要素が随所に存在する。『椅子直しの女』『ジュール伯父さん』『旅路』『帰郷』といった作品はどれも、下手な長編よりも強烈で深く、味わいがある。
『人間喜劇』のバルザック、『ルーゴン・マッカール双書』のゾラ、『ボヴァリー夫人』のフローベールといった大作家にも彼は決して劣らない。その深い思想と哀れな者への憐憫はこれから先にもずっと人の心を打つであろう。未読の方には一度この本を読んでその力量に触れてみて欲しい。高山鉄男氏の素晴らしい訳業と選択もまた、短編小説のみならず人生の面白みについて考えることを促進してくれるはずである。