この演奏、気に入らない人は気に入らないであろうと思う。快速のモーツァルトが氾濫する現代では、このたっぷりしたテンポが許せない、という人もいようし、それよりも有名な主題に掛かったポルタメントを嫌う人もいるだろう。しかし、今は失われた旧きよき、少しばかり退廃的なウィーンの演奏を愛する人にはたまらない名演だと思う。老ワルターの愛情のこもった音楽への接し方が感じられる。彼は本当にモーツァルトの音楽を愛していたことが感じられるのである。ワルターは、音樂というものは人を幸せにするためにするものだ、と思っていたのだろう。
あくせくとしなければならない現代、これほどのどかな、しかし緊張感の漲る音楽は、どういう意味を持っているのだろうか。せわしない現代であるからこそ、ほっと息をつける音楽がとても大切なのではないだろうか。また、現代にはこのワルターのようなエレガントな音楽をする指揮者が本当に少なくなった。人々が音楽に幸福を求める限り、生涯を通じて音楽に献身的な愛を込めたワルターの音楽が滅びることはない。