コープマンとアムステルダム・バロック管弦楽団のモーツァルト演奏を聴くと、
最初の一瞬から、違った場所に連れ去られる感覚がある。
それはとてもここちよい、澄みきった空を渡っていくような飛翔感。
彼の演奏の特徴は、澄んだ楽器の響き(古楽器の使用とピリオド演奏)、
小編成の小気味よさ、生き生きとした生動感。それと録音の良さ。
演奏の速度が速いとかそういうことはまったく問題ではない。
作曲者が楽譜に書いた上昇旋律は、まさに湧きあがるように演奏される。
モーツァルト音楽が最もゆたかに表現してくれる”歓び”を、オーケストラ全体が歌ってくれる。
彼の音楽は本来大ホールをぶ厚い音量で埋めるものではなかったはず。
こういった響きで、演奏で、会場に集った聴衆をつつんでいた。
コープマンの演奏で、僕らは初めてモーツァルト音楽の聴衆になる。
名曲の29番始まりという選曲もいい。33番も名演だが、最後に収められた25番はなんという響きだろう。
モーツァルト音楽の中で希少な短調作品ということで、
従来、過剰に強調されることが多かった情緒性を排した、ありのままの姿。それが曲の迫真性を際だたせていく。
ちなみにこのアルバムは、コープマンがバロック以降の音楽を最初に録音したものとなったが、
彼の選曲眼の良さは、この後のアルバムの連なりで、より明瞭になっていく。
「ディヴェルティメント」「ハフナー・セレナーデ」「戴冠ミサ曲」といった名盤たちである。