オランダ・ニュートン・クラシックスの企画によるフィリップス音源のライセンス・リイシュー盤。これまで2枚組2巻に分かれて市販されていたもので、4枚組のセットとしては初めてのリリースになる。また若干プライス・ダウンされたこともあってシェリング・ファンはもとよりモーツァルトが好きな方にとっても朗報だろう。
70年代のシェリングはしばしば精彩を欠いた、四角四面の面白みの無い演奏者として批判されるが、このモーツァルトには当てはまらない。それはまたピアニストにイングリット・ヘブラーというモーツァルトのスペシャリストが協演していることも幸いしている。彼らの演奏の最大の特徴は、両者の間での音楽的に絶妙なバランスだ。古典的均衡という意味では、まさに模範的なデュエットで、一曲一曲にモーツァルトが織り込んだ湧き出るような豊かな創造性を、この上なく上品な趣味で聴かせる二人のテクニックは流石だ。しかも彼らの解釈には全く恣意的なところが無いのも好感が持てる。またこの時代に流行したヴァイオリンのオブリガート付ピアノ・ソナタが、曲を追って次第にソロ楽器が主導権を握り、逆にピアノが伴奏にまわるソロ・ソナタに発展していく過程も興味深い。69年から72年にかけてのセッション録音で、曲目は以下の通り。
ヴァイオリン・ソナタK.296,K.301−306,K.376−380,K454,K.481,K.526,K.527と『羊飼いセリメーヌ』のテーマによる12のヴァリエーショント長調K.359及び『ああ、私は恋人を失った』のテーマによる6つのヴァリエーショント短調K.360。ちなみに同じメンバーによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲集はイタリア・フィリップスからやはり4枚組CD(4768139)で出ている。