ピリオド楽器を使ったモーツァルトのフルート協奏曲としては、B・クイケンが1990年にラ・プティット・バンドと録音したCDが既にソニーから出ていたが、彼がアウグスト・グレンザーを用いているのに対して、ヒュンテラーはこれらの曲をオリジナルのヤコブ・デンナーで吹いている。このトラヴェルソは彼が1991年にケルンの楽器商から4か月の交渉の末に20万ドルで買い付けたという、いわくつきの名器だ。製作年は1720年頃といわれ、拓殖材で製作された本体と3本の替え管からなるセットで保存状態も非常に良く、充分コンサートに活用できることから、その後のヒュンテラーはこの楽器を使って様々な録音を行っている。
デンナーはどちらかというとバロック特有の中低音が太く、強い音が特徴なのでモーツァルトの協奏曲の高音部の軽やかな表現にはむしろA・グレンザーの方が適している。このために楽器の選択という意味では最適とは言えないが、モーツァルトの時代にもこの楽器が使われていたことは充分考えられる。しかもブリュッヘンの比較的シンプルで作曲家の意図を活かした軽快な指揮と、ヒュンテラーの頭脳的なプレーによって不自然さや重苦しさは全く感じられないし、ロココ風の優雅な表現にも成功している。1995年の録音だが、残念ながらこのCDも既に生産中止の憂き目に遭っている。