着実に録音活動をこなしているキーシンのモーツァルトとシューマンの協奏曲。リリースされてみると、なるほど、と思うほどにキーシンの個性が引き出された演奏であり、それに適した楽曲だったのだと思う。キーシンの演奏は、例えば、以前弾いていたシューベルトのソナタなどは幾分型にはまりすぎて、単調な物憂さが残ったけれど、このモーツァルトとシューマンは実に良い。
実際、キーシンのピアニズムはモーツァルトによく合うだろう。きわめて平衡感覚の強い音感と、しなやかなピアニスティック、そしておそらくつねにその音楽性を支えている古典的な教養があると思う。そうして引き出されるモーツァルトの世界は、なかなかいい意味で辛口で、「大人のモーツァルト」になっている。いわゆる「遊戯性」のようなものはほとんど感じられないが、純粋に突き詰められた音楽で、高貴な香りと崇高な気品がある。デイヴィスの指揮もそれにあわせたのだろうか、かつての彼に比べると、いくぶんシックな色合いで、落ち着いた、部分的に固めなサウンドである。
ロマン派の代表的なピアノ協奏曲といえるシューマンでも、キーシンとデイヴィスのアプローチはモーツァルトと共通しており、そこでは自由な華やかさより、拘束のもたらす規律正しい気品に満ちている。全般を通してライヴ録音とは思えないほどの客観視を感じるのもこの演奏の特徴だろう。オーケストラのサウンドもそれぞれの楽器がその役割に徹した感があり、禁欲的ともいえる響きであるが、それゆえの内省的な美しさが隅々まで満ちている。私にとってキーシンの演奏の新しい領域を感じる一枚となった。