学生時代、東京の神田にあった行きつけのレコード店の主人の助言で買ったモーツァルトのクラリネット五重奏曲のLPは、レオポルト・ウラッハとウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のもので、いくらか大時代的な響きのする録音から聞こえてきた彼らのモーツァルトは、限りなくしっとりとしたレガート奏法による、天上の音楽のようだった。後にアルフレート・プリンツとウィーン室内合奏団の演奏を聴き、あの時の記憶が蘇った。彼がウラッハの高弟だったこともその時に知った。プリンツのテクニックは師匠のそれよりモダンで精緻ではあるが、紛れも無くウラッハ流であり、脈々と受け継がれているウィーン奏者の伝統に深い感慨を覚えた。彼の柔らかく、練り上げられた滑らかなクラリネットの音質は、決して押し付けがましいものでなく、モーツァルトのこの名作を飽くまでもウィーン風にこだわった演奏で満喫することができる。カップリングされたセレナードと共に1979年の録音で、20bitリマスタリングの音質は極めて良好だ。