『フィガロ』のDVD名盤には、(1)グラインドボーン音楽祭、プリチャード指揮、1973、(2)パリオペラ座、ショルティ指揮、1980、(3)ドロットニングホルム宮廷劇場、エストマン指揮、1981、(4)シャトレ劇場、ガーディナー指揮、1993、等がある。中でも(1)(2)は伝説的な名演だが、このベーム盤もそれに劣らない。まず、スザンナのポップ、伯爵夫人のヤノヴィッツは、配役が(2)と同じ。しかも(2)が1980年7月14日のライブで、こちらは同年9月30日のライブ。当日の東京文化会館の聴衆がどれほど感動したかは、鳴り止まぬ万雷の拍手からも分かる。第3幕以降、あの少女顔のポップが黒服に身を包んだしっとりとした美しさは、『フィガロ』上演史でも最高のスザンナだろう。(2)のスザンナより、こちらのスザンナの方が、笑って、はしゃいで、幸せそう。夭折したポップは、かくて永遠のスザンナになった。フィガロのプライも、颯爽として澄んだ声。ベームの指揮はテンポが遅い。だがその分、歌手はじっくり心を込めて歌い、ウィーンフィルの音が、とても優しく美しいので、澄んだ声のアンサンブルとよく調和する。第二幕の重唱は、めったに見られない透明感に溢れている。