モーツァルトの様々な作品を演奏し、それ以上に多くの曲を実演やCDで聴いてきましたが、それでもその膨大な作曲数からみると少ししか聴いていないわけで、このようなムックの存在は知識の整理だけでなく、まだ聴いたことのない楽曲への誘いとなるものでした。
240頁という紙面の中で、今入手できるCDの曲を全て盛り込んでおり、モーツァルト事典のような使用も可能です。あまり聴くことのないマイナーな作品について触れられているのはありがたいですし、参考になりました。
一方、モーツァルトの特定の好きな作品を深く知ろうとすると少し当てが外れることになるでしょう。例えば、交響曲第40番も、歌劇『魔笛』や『ドン・ジョバンニ』も、そして畢竟の名曲『レクイエム』でも1頁の分量の中でまとめられています。その作品の成立に至った経緯や音楽史での位置付け、各楽章の細かい解説などを期待する向きにはものたりないと思いますが、それはまた別の本にあたれば良いわけで、使い分けが必要となりますね。
安田和信の巻頭言、オットー・ビーバの特別寄稿「モーツァルト今昔」、饗庭孝男の器楽曲序説「芸術家としての自負から生まれ、ピアノという楽器の本質をきわめた18曲のピアノ・ソナタ」、今谷和徳のオペラ序説「原点に戻ってモーツァルトの意図どおりの上演を」、田辺秀樹の特別寄稿「複雑で微妙な状況を見事なアリア・重唱に」、喜多尾道冬の歌曲序説「触れたものすべてが黄金に変わる生彩あふれるリートの輝き」など魅力的で示唆に富んだ文も掲載されていますので、解説書としての体裁も取れています。
巻末に「ケッヘル番号順索引」が付いています。つまりケッヘル番号で検索すると該当の頁をたどれるという工夫が為されていますので、『新モーツァルト全集』を見て実際のCDを入手する際には役に立つ工夫です。便利で貴重なムックでした。