2007年、目白バロック音楽祭のオープニングコンサートのライヴ盤。
このディスクは、何よりも会場の東京カテドラルのしっとりとした響きが堪能できることが素晴らしい。残響の豊かさはまるで夢のようだ。とはいえ、演奏者たちの技量がなければ、それも相殺あるいは台無しにされてしまうであろう。
現に、同会場で評者はコープマンの『マタイ受難曲』を聴いたことがあるが、そのセカセカとした音楽に一つも心を動かされなかった。
本ディスクでは、演奏者たちがしっとりとした響きに心を通わせ、この世紀の名曲に全身全霊打ち込んでいることがわかる。しかも、外見は静謐な燠火のような熱情でなければ、この曲は死んでしまう。指揮者やソロのパート、合唱のそれぞれが、あふれ出す情熱を心に秘め、あくまで凛とした響きを紡ぎだしている。それらは「マニフィカト」に入ってからは一層顕著だ。
名盤とされるユルゲン・ユルゲンスやシュナイト盤、最近の鈴木雅明&コレギウム・ジャパン盤など、おそらく現在の流通事情が許す限りのディスクを評者は聴いてきたと思うが(全てとは言えないだろうが)、そのなかでも本ディスクは屈指のものだと思われる。
それぞれの楽章に感銘を受けたが、ことにマニフィカト「飢えた者を・・・」の清澄、深甚な響きには参った。
豊島区目白がバロック音楽で町興しをしているとは、テレビのニュース番組で聞いたことがあったが、これほどの高水準のプログラムを用意しているとは・・・。
目白と言えば田中角栄の錦鯉くらいしか思い出さない関西出身の評者は、その不明を深く恥じ、このディスクの演奏者たちに満腔の敬意を表したい。
錦鯉の原色の多彩さとは対極にある、本物の祈りの音楽であった。
(念のために付言するが、評者はこのディスクの関係者とは縁もゆかりもない。)