プロローグ等を除いた本編の第一部が文永の戦い、第二部が弘安の戦い、第三部が「神風伝説」誕生の舞台裏を扱う。公家の日記を含む日本側のものは勿論、高麗史、元史日本伝等の史料や水中考古学の成果(弘安の戦いで吹いた風の速度までわかるのに驚く)をベースに、合理的な推理を交えて描く文永・弘安の戦いの実相が面白い。遠征軍の構成・作戦・日本側の防御体制等において、2つの戦いは随分異なる。両方の戦いで遠征軍は暴風雨に遭うのだが、戦いの帰趨を決める点で2つの戦いでの暴風雨の重みは異なる。共通するのは、多民族混成軍である遠征軍の中での不協和、モンゴル人の海に対する恐怖、モンゴル人に遠征の準備等をさせられた高麗や南宋の民の苦しみと厭戦気分、日本側の下級御家人の奮戦、多くの御家人が無関心だったこと、および神頼み。
幕府・朝廷・武士が一体となって国難にあたったとされるが、各々の事情・思惑があったことの解説は興味深い。そして遠征軍の事情を知らない日本側の勘違い・思いこみに端を発する神風伝説・神国伝説誕生。日本人の精神を呪縛し続けた伝説の起源を知ることができる。
なお、幕府崩壊が早まったことの説明がないように思う。