島崎美代子・長沢孝司両編者は日本福祉大学(愛知県)で、特に今日「21世紀COEプログラム・社会福祉開発の政策科学形成へのアジア拠点」(文部科学省推進)のモンゴル研究を推進中。アジアの福祉社会構築にあたり、モンゴルは定住農耕文化に対峙する固有の遊牧文化を基層に、また一九九〇年以降の民主化下でも以前の社会主義で培った社会福祉意識を引継ぐ特徴をもちます。本書は九〇年代後半の日蒙協力調査により、まず第1部「家族と地域社会」では、遊牧社会に自然と人間また人間同士の共生、“生きる”営為という人間本来の価値を見出しながら、牧民の生き様を体験取材、彼らの家族生活史と世帯・親族及び地域社会の構成をヒアリングから掘下げます。第2部「貧困問題とコミュニティ開発」では、モンゴル全土に広がる貧困改善のキーとして「エンパワーメント(権能委任)」による自力自立への支援と持続的成長を強調、一九九四年から六年計画で実施の「貧困緩和計画(PAP)」の理念とケーススタディを例示します。また農牧地域のコミュニティを“曼陀羅モデル”で示しながら、その開発は通常数百世帯を抱え「ソム」の名をもつ県(モンゴル全土で二十一県)の下の行政単位(いわば日本でいう郡)の中心地(これも慣例的に“ソム”と呼ばれます)の機能の開発・強化にあると分析。またその中の「保健・医療」政策に焦点を当てます。第3部「流通機構の再編と消費者問題」では、牧民経済復興の鍵を握る流通システム(社会主義下ではトップダウンで存在、民主化で一旦解体し再編中)問題を概観。消費者行動については都市と地方で異なる食料、伝統的に好まれる数や色など、文化的要素の記述に同感。巻末には九七年までの各種経済統計も。日蒙共同作業も手伝い、自然環境から育まれた遊牧の伝統・文化を価値視しながら、モンゴルに現代の知恵と力を如何に組込むかの視点が貫かれていて好感です。