著者が冒頭で言及する如く、広大な面積の中に分散居住、家畜と直接的関係を結び自然と折合う遊牧文化に根差すモンゴルと、狭所に集中住居、人と折合う農耕文化で象徴される日本は対照的。本著は相撲力士の活躍や地下資源開発で日本人に興味が湧きつつあるモンゴルについて、その前世紀を四人の証言から浮き彫りに。二十世紀の「モンゴル」は、北のロシア内ブリヤト自治共和国と南の中国内内蒙古自治区に血族を残し分断の犠牲を甘受しつつ中国から独立(一九二一年)、ソ連共産主義の強い影響下で元来の遊牧文化に社会主義を適用しながら、その崩壊の世界的潮流の中で民主化・市場経済化(一九九〇年)。ダムディン元産業大臣は、一九二八年の産業コンビナート建設着手から、日本との国交回復(一九七二年)後最初の経済支援実施となったゴビ社・カシミア事業開発のエピソードなどを首都建設の観点から。ミンジュール労働英雄(フトゥムリンバータル)は、貧民家庭出身の一遊牧民が、同苦同胞の幸福の為に社会主義集団化を象徴する牧畜協同組合「ネグデル」を発展させた道程を。ゴンガードルジ元首相(一九九〇年三−十月)は、市場経済化における国営農場私有化と以後の農業衰退の結果を評価、モンゴル人の「技術を状況に適合維持発展できず、むしろ安易に諦める性向」と、モ的特徴(遊牧、地理的不利、人口分散等)の考慮と国家の調整・計画性の両欠如の指摘に及びます。人民作家のプレブドルジ氏は、チンギスハーン生誕八〇〇年(一九六二年)賞賛以降の民族主義者レッテル、モンゴルの「白い家」(ゲル)にイメージ対峙させた作品『赤い家の囚われ人』を通じ自由剥奪の社会主義を投影。終章で内蒙古の歴史学者ブレンサイン博士が、一九六〇年来の「中ソ冷戦」で両大国に翻弄される内外モが相互に要らぬ誤解を増幅し対立の矢面に立つ運命や、著者の「証言」による歴史考察の意義を論説。より多くの「証言」集が期待されます。