この本は単行本のときは『双子座ピアニストは二重人格』という表題で、文庫版の段階で「モノ書きピアニストはお尻が痛い」になったそうです。単行本の題名のほうが、内容を反映しているように思いました(文庫版の題名は収録されているエッセイのなかのひとつの表題を援用)。
著者は6月4日の双子座生まれで、この星のもとに生まれた人は「ちょっとおかしい」人が多く、二重人格らしい(p.256)。それはともあれ、著者はピアノの演奏家であり、文筆家です。かつ自己分析によれば、著者は書物ではマニエリスティックな穿った評論を好む人ですが、こと音楽に関するかぎり自然を信奉する人らしいです。ピアノを弾くときは優雅で洗練されたピアニズムを目指すが、文学では「醜悪の美」にのめりこむというのです(p.29)。
このことが理由からかわからないが、著者はものを論じるときに二面的な接近が得意のようです。ドビュッシーとラヴェル、演奏家ではミケランジェリとポリーニ。そして、ドビュッシーとマーラー、ドビュッシーとワーグナー。そう、著者は、ドビュッシーの専門家であり、ドビュッシーについての論文で博士号を取得しているのです。本書は、「わたしのなかの『二つ』」「ドビュッシーのなかの二つ」「ピアニスト的作曲家論」「音楽の背景」「大いに飲み、食べ、語る」「ピアニスト的演奏論」「演奏することと書くこと」で多くのエッセイがグループ分けされています。
該博な知識に裏づけられた作曲家論、演奏論もためになるが(とくにピアニスト的ピアニストと作曲家系ピアニストとの相違を述べた「作曲家系ピアニストの演奏は、なぜ面白いのか」[pp.206-213])、お酒が大好きであるとか、食に関する想いも人並みでありません。音楽評論家という種族に対する意見は痛快でした。