何よりも野口先生にとって残念な一冊でしょう。野口先生が本書で絶賛するアイルランドは、いまやユーロ圏の問題児PIIGSと蔑まれ、失業率は15%に達してしまった。小野善康氏の新著『成熟社会の経済学』(岩波新書、2012年)は、バブルで痛い目にあった日本でさえ、あいかわらずバブルに惑わされているエコノミストが少なくないと断罪しつつ、「たとえば、野口悠紀雄『モノづくり幻想が日本経済をダメにする』では、バブル経済への投資で稼ぎ、後に金融危機に陥ることになる当時のアイルランドを絶賛している」と皮肉っている(pp.47-48)。結局のところ、幻想に囚われていたのは野口先生御自身だった。後知恵で評価するのは気の毒ながら、一流の論客にしてこの程度の分析力かと多くの読者を失望させてしまった。何よりも、金融系の研究者や実務家はモノづくりに心血を注ぐ技術者・労働者への敬意に欠けるところが気になるところである。