題名から第二次世界大戦のモスクワ攻防の戦闘経過が仔細に描かれたものを期待したら裏切られるだろう。
この本の主目的はモスクワ攻防戦が第二次世界大戦においてもっとも重要な戦いであったことを示そうということで、戦いそのものでなくその背後でおきていることを描くの主眼である。
そのため、戦争前から始まって独ソだけでなく英米の外交の動きに重点を置いて語られる。
そういう意味では独ソ戦についてあまり知らない人に向いている本かと最初は思った。
ソ連崩壊後に明らかになった資料を基にしているというのがウリのひとつになっているが、ソ連が崩壊してから既に久しく、Overyの「Russia's War」を鏑矢に西側の学者が旧ソ連の資料を基にした本は既にいくつもでているのに、そうしたことを謳っているあたりにこの本のありようの一旦がうかがえる。
筆者自身が行ったインタビューは確かにソ連崩壊前にはありえなかったろうだけに貴重だが、それ以外の点で何か目新しい発見があると思えない。
もちろん、英・米の外交姿勢を仔細に描いている部分とか、これまでの独ソ戦の本ではあまりみかけない視点が重視されていて、個人的にはとても勉強になったところもあるが、旧ソ連の資料とは関係ない話だろう。
ドイツの部分についてはグデーリアンやマンシュタインの自伝という旧来からのものが引用されているのがめだつし、監修者が解説でそれとなく触れているが、ヒトラーがモスクワ占領を最初から狙っていたというのは、一般的な説ではなく、そうしたことを前提に語られていることに、筆者の独ソ戦の一般的な知識の欠如を感じてしまう。
そもそも筆者が言うように一般的に独ソ戦においてモスクワ攻防戦の価値が過小評価されているとも思えないし、従来の説にないモスクワ攻防戦の重要性を語れているとも思えない。
先にも書いたようにこの本ならではの部分は確かにあるのだが、専門知識に乏しい人が一生懸命勉強して書いたという感が強く、最初に感じたのとは逆に、このテーマの初心者にはお勧めできないというのが正直な思いである。