ミステリの定番テーマに基づいて書かれた七つの短編
を、モザイク(寄木細工)をイメージして構成した連作集。
前日譚に当たる他作品(特に
『密室・殺人』)を読んでおけば、一層楽しめます。
■「路上に放置されたパン屑の研究」――日常の謎
記憶に欠落があり、自分自身が何者であるかすら把握できていない田村二吉
の家に、“徳さん”という老人が突然やって来た。徳さんが言うには田村二吉は
高名な探偵らしいのだが、田村自身には、まったく身に覚えがない。困惑する
田村をよそに、徳さんは自らが遭遇した謎について推理するよう強要してきた。
なんでも、路上のいくつかの場所で、二、三日に
一度、必ずパン屑が放置されているというのだが……。
“記憶障害の探偵役”というキャラ設定から、勘のいい読者は真相に
気づくかもしれませんが、本作の主眼はそこにはありません。真綿で
首を締めるようなある人物のねちっこい悪意こそ読みどころなのです。
※この他の短編については「コメント」をご参照ください。