著者はあとがきで、この本の趣旨は、
「イタリアというフィルターを通して見えてくるモウリーニョ
という監督の卓越性と革新性」を描き出すと同時に、「モウリ
ーニョというフィルターを通して見るイタリアサッカーの現在」を
伝えることだと書いていた。これは成功していると思う。
特に好感をもったのは、一番重要なモウリーニョの発言をはじめ、
まず、正確な事実をきちんと、わかりやすくまとめて伝えている点だ。
著者はイタリア在住歴が長いだけあって、モウリーニョに関する
イタリアの記事を豊富に紹介し、当時の試合状況や結果についても
要領良くまとめて紹介した上で、自分の見解を加えている。
ヨーロッパのスポーツジャーナリズムの良い点が身についている印象が
あり、一部の日本のスポーツ記事に見られるような、主張の根拠となる
事実をきちんと示せていない感傷的な文章や、「俺のサッカー論を聞け!」
的な、自己顕示にまみれたウンチクとは本書は無縁だ。また、本書は
いわゆる自己啓発系の本ではないので、その点も安心していい。もちろん、
モウリーニョから学ぶことは多いのだが。
L.ローレンスの『ジョゼ・モウリーニョ』も、とても良かったが、
記述がやや冗長なところがあったので、むしろ、この片野氏のイタリア編
のほうがよく書けているのではないかと思った。イタリア人のサッカー観や
イタリアメディアの世界を垣間見ることができたのも面白かった。
本書とローレンスの本で、モウリーニョのポルトガル時代とイタリア
時代を知ることができたので、次はイングランド時代の本が読みたい。