ヤッシャ・ハイフェッツは、音楽之友社の『
新音楽辞典 (人名)』によれば「その名が〈ヴァイオリン的完璧性〉の同義語とさえなった20世紀最大の巨匠の一人」である。
その彼の名刺代わりとなるのが、このメンデルスゾーンのホ短調のヴァイオリン協奏曲と、チャイコフスキーのニ長調のヴァイオリン協奏曲のカップリングCDであろう。
チャイコフスキーの協奏曲のほうは、師匠のアウアーが施した慣例的カットを施しており、原典通りに弾くことの多くなった昨今では、形式面での古さは否めない。
しかし、この演奏は、原典通りの演奏がまどろっこしく感じるほどに音楽の流れがよい。
同僚のエルマンのような泥臭さの強調もなく、シャープな弾き口でありながら、往年のフーベルマンのような硬さもない。感情過多に陥ることのないセンスのよさが、演奏の格好の良さにに繋がっている。
ロシアの作曲家としてのチャイコフスキーのキャラクターをグローバル化したという点だけでも、ハイフェッツの業績は素晴らしいと思う。
チャイコフスキーの協奏曲におけるハイフェッツの演奏の切れ味の鋭さは、フリッツ・ライナーの、贅肉をそぎ落としたスマートな伴奏によって、よりいっそうの鋭さを獲得している。
第一楽章のクライマックスでも感情におぼれることなく、緻密にオーケストラを鳴らしていく冷静な視点は、ハイフェッツの演奏のクールさと親和性が高い。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、ハイフェッツの演奏のクールな美しさが見事だが、ややミュンシュの伴奏に元気がないのが気になる。
とはいえ、チャイコフスキーの協奏曲におけるライナーのサポートと比べてのことなので、演奏の充実度は高いレベルにある。