サブプライムローン問題(住宅バブル)に端を発する今回の金融危機を中心に書いてある本です。世界でもかなり売れているらしいです。
本の紹介をする前に。
著者のトーマス・ウッズという人物は「オーストリア学派」という経済思想の持ち主です。
経済思想は、ものすごく大雑把に分けると2種類あって、古典派経済学とケインズ経済学があります。
前者はアダム・スミスの「自由放任主義(レッセ・フェール)」を基礎においています。「市場の動きを重視しよう。政府は市場に介入するな」という考え方です。
後者は政府による財政政策重視の立場です。「市場を放っておくと『市場の失敗』が起こる。政府ができるだけ介入して、市場を管理するべきだ」という考え方です。
オーストリア学派は、前者の古典派から派生した学派の1つです。創始者はウィーン大学のカール・メンガーで、ルードビッヒ・フォン・ミーゼスや、「自生的秩序」を提唱したあのフリードリッヒ・ハイエクもこの学派に属します。最近報道でよく聞かれる「市場原理主義」にかなり近い考え方です。
「市場原理主義の学派だって?とんでもない!」と思うかもしれませんが、この本は市場原理主義に関して重要な問題提起をしています。
テレビ・新聞などで、大半の人達は「今回の金融危機は行き過ぎた資本主義が原因だ。政府(財務省)は大規模な財政政策を行い、中央銀行はさらに金融緩和をおこなうべきだ」という考え方を植えつけられています。
しかし、この本は「本当に行き過ぎた資本主義が原因なのか?そもそも、金融危機以前の状況は、本当に『市場原理主義』と言えるものだったのだろうか?」という所から考えます。
著者は「今回の住宅バブルの原因は、連邦準備制度(アメリカの中央銀行)そのものだ」という、驚くべき見解を提示します。もし日本で「あの『失われた10年』の原因は日銀そのものにある」と言ったら、どれだけの人が受け入れられるでしょうか。しかし、著者は前掲のようにきっぱりと言い切ります。今回の住宅バブルを予言していた自負があるからでしょう(オーストリア学派の経済学者のほとんどは金融危機を予言していたらしいです)。
今回の金融危機に関して、著者の言いたいことを端的に示すと、以下のようになります。「今回の住宅バブルは、連邦準備制度が過度の金融緩和(ゼロ金利と量的緩和)を行い、そこに政府が支援をし(貧困層に対して、富の裏付けもなく贅沢な住宅を持たせる)、ファニーメイやフレディマック(アメリカの住宅公社。金融機関を通じて間接的に貧困層にお金を貸す)もそれに乗っかり、資金が特定の分野(サブプライムローン)に過剰に流れ込んだことが原因だ」
つまり「市場に介入せず、自由放任にしておいたこと」が原因なのではなく「連邦準備制度が金融緩和という形で市場に介入したこと」が原因だとしているのです。「規制緩和」「規制強化」の次元ではなく、介入そのものを良くないことだとして断罪しています。
話は金融危機勃発後の対策にも及びます。
「さらなる金融緩和をおこなって、消費を拡大させよう」「国債を大量に発行して、破綻しかかっている企業を救済しよう」といった政策に、著者はNOを突きつけます。
前者に対しては「金融緩和によって住宅バブルが起こり、消費が拡大した結果、こうなったんじゃないか。本末転倒だ。また、この政策をとるなら、消費ではなく、生産に注目すべきだ」、後者に対しては「企業に救済を行うことは、結果としてモラル・ハザード(救済してもらえるから経営が少しぐらいずさんでも大丈夫だ、というような倫理の低下)を引き起こす。破綻したのは、市場が『おまえはもう必要ない』と判断したからだ。みんなが必要としないものにわざわざ税金をかける必要は無い。いらない分野に税金をつぎこむことで、不況はむしろ長引き、借金も増えるだけだ」というような批判をしています。
さらに、現在の通貨制度や、これからなすべきことについても書いてありますが…ここから先は読んでからのお楽しみですね。
オーストリア学派の景気循環理論からは、以上のような見方ができます。テレビ等の報道とまるで正反対のようですね。難を言えば「全て市場に任せることで、何もかもよくなるのか。市場原理主義をとることのデメリットはないのか」を知りたかった気がしますが、なにしろ「市場原理主義」の学派なので、こればかりは仕方ないですね(笑)。「政府は余計なことをせず、市場に任せる」。怖い気もしますが、試してみる価値は十二分にあるかもしれませんね。
書き足りないところ・書きたかったところ等いろいろありますが、以上です。この本を日本で出版してくださった副島隆彦さん、古村治彦さん、成甲書房さんに感謝ですm(__)m