あの日から不思議だった。大震災、大津波、そして原発事故が起きたあの日。
原発事故の後、状況説明する記者会見が繰り返し行われた。放映されなかった部分はネットで追うこともできた。
会見で集中砲火を浴び、白髪が増して憔悴していく東電の社員は、単なる社員だった。
情報を伝達するのが役目で、決定権が一切ないのが明らかな人たちだった。
次々と原子炉の建屋が爆発して、周辺地域が今後どうなるかまったく見通しがたたなくて、放射能汚染に日本中がおびえていたのに、説明していたのは、単なる社員だった。福島県に最初に行った経営幹部は、社長でも会長でもなかった。
社長はどこ行ったの?
決定権がなく情報を伝達しかできない単なる社員を、日本中の非難の目にさらして、頭も心もおかしくなりそうな最前線の修羅場の矢面に立たせて、社長はどうして出てこない?
本来なら、袋叩きにあうのは社長のはずだ。会社の顔だから、そのためにいるはずだ。「私は寝てないんだ!」で有名になった社長も、記者会見の場に出てきた上で、その発言をした。震災直後に信じられないシステムトラブルを起こしたみずほ銀行も、記者会見で頭取が状況を説明して謝罪した。当然だ。
天皇陛下は国民にビデオメッセージを送った。国の象徴として。
で、東電の社長はどこ行ったの? 紙切れ一枚のコメントを発表しただけ。
被災者や、電力利用者への説明責任はどうしたの?
それ以前に、東電って上場会社じゃなかった? 社債も公募してなかった? 東電に投資していたのは、直接、東電株や社債を持つ投資家だけじゃない。あの当時、株価指数や債券価格指数にも採用されていたから、ETFやインデックス投信や日本株・日本債券投信を通して、それはもう大勢の個人のお金が間接的に東電に投資されていた。
マーケットから広く資金調達をしているなら、投資家や債権者への説明責任があるはずだ。投資家や債権者の資金を預かって事業を行うのが経営者で、その代表が社長だ。
東電の株価が「半減期8日」で急落する中、社長は、なぜ出てこないの?
不思議で仕方がなかった。
この本を読んで、不思議は解消しなかった。やっぱり不思議な会社だと、理解できない思いが膨らんだ。
社長は入院中、一億円の住宅ローンをネットで完済したそうだ。そんなお金がよくあったな〜と思ったら、その謎はすぐとけた。
事故の後「役員報酬を半減する」と申し出たが、役員報酬がいくらか官邸から再三問い詰められるまで言わなかったそうだ。本によれば7300万円。それだけもらっていれば一億のローンも完済できるだろう。半減しても3650万円だ。その後すぐ、半減でなくゼロにした。半減を申し出た役員報酬を「個人情報だから言わない」って、あの状況で。
そして、そもそも電力会社の「総括原価法」による会計処理では、なんと株主への配当が原価に含まれて計上されて電力料金の計算根拠になっているそうだ。配当って、儲けから色々な費用を差し引いて最後に残った利益(基本的には株主のお金)を、株主の同意を得て処分するもので、そもそも原価とか費用にしちゃいけないんじゃなかったっけ?
筆者は「メルトダウン」というタイトルは原発の炉心だけを指した言葉ではないと、あとがきに書いている。東電と経産省そのものがメルトダウンしていたのだと。
あの事故の後、賠償をめぐる様々なニュースをみて「電力会社は民間企業の立場と公益インフラ事業者の立場を都合よく使い分けている」と、色々な場面で感じた。
つきつめれば、そんなことができるのは、独占企業だからだ。
原子炉も企業も監督官庁も「メルトダウン」してもなお、電力供給をその会社に頼らざるを得ないのは、独占企業だからだ。
原発を独占企業が動かしているから、こんな不思議なことになったのではないか?
ち密な取材、ところどころで噴出しているけど全体的には感情を押さえた文章で、読み手のモヤモヤや「?」や驚きが自然にわいてくる一冊。
確かに、これは「読み始めたら止まらない」(と帯に書いてある)、そして「会社って何?官庁って何? インフラって何?」と、根本を考えさせられる一冊だ。