強姦され、目の前で無残に死んでゆく愛する妻の顔、それがこの男の最後の記憶だった。
男は事件のショックで新しい記憶を脳に留める事が出来ない障害を負った。手元に残したポラロイド写真と、身体に刺青として刻み付けた妻を殺した犯人の手がかりだけが男の記憶代わり。
ストーリーは男が目を覚まし自分がどこにいるのか、なぜそこにいるのかも分からない状態で始まり、後ろ向きに展開してゆく。私達は男と一緒にポラロイド写真のメモと刺青とだけを頼りに何が起こっているのか理解しようともがくことになる。たまらなくもどかしく、はがゆく、苛立ちと心細さで発狂寸前になる男の心理が痛いほど伝わってくる。
誰も本当には信用できない。敵なのか?味方なのか?本当の犯人は誰だ?誰もが男の記憶障害を利用して何かを企んでいる気がする。妻の死の前の記憶はちゃんとある。自分が誰で、どんな仕事をしていたかもちゃんと知っている。だが、本当にそうか?真実が辛過ぎて自分で歪めた偽りの記憶ではないのか?自分で書いたメモでさえ、あてにならない。自分が信じたいことだけを書き残しているのでないと、誰にわかる?
冷たい汗をかきながら思い出せない悪夢から覚め、「ああ、夢だった」と一瞬の安堵にまどろむまもなく、それが現実だったと知って沼地獄にはまるような重だるい恐怖に失神し、同じ悪夢にうなされてはまた目覚める。そんなだまし絵の中を永遠に彷徨するような苦しみから、男が解き放たれる時は来るのか?
おそろしく、哀しく切ない男のものがたり・・・。