昔、「ムーミン」と言ふ連続アニメーション番組が有った。世界的童話作家のトーベ・ヤンソン(故人)の同名の童話を、手塚治虫氏(故人)が、虫プロダクションでアニメ化した作品で、1970年代前半に、放送されて居た物である。私が、このアニメーションを見て居たのは、私が高校生の頃であるが、私は、このアニメーションの素晴らしさに気が付き、毎回、深い感銘を受けながら、見たものであった。その時、私は、高校生だったから、私は、このアニメーション(「ムーミン」)を子供の目で見た訳ではない。なかば大人に成りかかっていた人間の目で見て、この「ムーミン」が、ただならぬ作品である事に気が付いたのである。本書は、科学史の研究者である瀬戸一夫氏が、その虫プロダクションのアニメーション「ムーミン」の物語を回想しながら、そのそれぞれの物語に重なる西欧の哲学史、数学史、のトピックスを語った、ユニークな一書である。書店でこの本を見た時、嬉しかったのは、あの時代(1970年代前半)に、私と同様、既に子供ではなかったのに、あのアニメーション(「ムーミン」)を見て、私同様、深い感銘を与えられて居た人物が居た事を知った事である。本書を読むと、瀬戸氏が、あのアニメーション(「ムーミン」)に対して持つ思ひ入れの深さが感じられ、その点には、強い共感を抱いた。そして、瀬戸氏が、そうした「ムーミン」の物語を回想しながら語る哲学上の問題は、確かに深遠であると感じた。しかし、申し訳無いのだが、瀬戸氏の文章は難解で、読むのが疲れる、と言ふのが、私の偽らざる感想である。手塚治虫の「ムーミン」は、宮崎アニメとは全く違った、日本のアニメーション史上の宝であり、瀬戸氏が、それを取り上げ、人々に思ひ出させようとした事が、貴重であっただけに、余りにも難解な文章によって、その試みが、十分生かされなかった事が、残念でならない。(西岡昌紀・内科医・1956年生まれ)