これは、ベネズエラ人彫刻家と結婚し、ベネズエラの社会の中を生き、ベネズエラの家族の中を生きた日本人女性の自叙伝的物語。
彼女の暮らしを通して浮き彫りにされるのは、ベネズエラの極度に政治化された社会だ。政治の状況が変わると、一瞬にして職を失ったり、逆に恩恵を享受できるようになったりし、一個人の生活が大きく揺さぶられる。そうした意味で、社会と政治の関わり方が現代日本とはまるで違い、もし自分がこの国に生まれていたらと想像を掻き立てられる。
またベネズエラ社会だけではなく、喜怒哀楽を全力でぶつけ合い、全力で分かち合うベネズエラの家族も、主人公の前に立ちはだかる。10人以上登場する夫の一族は、いつも騒がしく遠慮の無い振る舞いで、彼女を支えつつも悩ませることもしばしばである。その個性豊かな一族の活写を通して、現地での軍人の位置づけやベネズエラ人の家族関係など、多様な生活場面を垣間見ることができる。
解説でも述べられている通り、辛く悲しい体験も織り交ぜながら進むこの小説だが、読中・読後に悲愴感は感じられず、とても鮮やかな心象を残す。普通の小説としても楽しめるが、ベネズエラやラテンアメリカに興味がある人には是非薦めたい。