最初の100ページくらいはミラーニューロンの神経学的説明が多いので、少しとっつきにくいけれど、それを使って、以下のような疑問に答えていくあたりは圧巻。
人はどのように他者の表情を読むか。 他者に共感する能力はどのように育つのか。
自己認識や社会意識はどのように発達するか。 自閉症では何が問題なのか、
メディア上の暴力と暴力行動の相関性。 人は自分自身をどのくらい知っているか。
人が他人の感情を読むにあたって、今までの心理学の説明にあるような、難しい推論はしていないだろう、もっと自動的で簡単な方法で人の気持ちを読んでいるはずだ。著者は、この誰もが感じていた疑問に明快に答えてくれる。
私は知的障害者の施設で仕事をしたことがあるが、彼らの多くは、人の気持ちを読む力は普通だった。だから、人の気持ちを知るのに小難しい推論はいらないという著者の主張はとても良くわかる。しかし、人の気持ちを認識する能力が、そのまま対人能力と相関するという主張は受け入れられない。人の気持ちをよく読める知的障害者たちの対人能力は、多くの場合、優れてはいなかった。彼らは、自分が他人から好かれていないことを知っていた。しかし、どうしたら人に好かれるようになるのかを考えて、問題を解決することはできなかった。これは知的障害者に限ったことではないと思う。対人関係に問題がある人の多くは、人の気持ちが読めないわけではなく、問題解決ができないのだ。例えば、体臭恐怖などというのは、珍しくもないようだ。彼らは人間関係がうまくいかない理由を自分の体臭に求めているが、多くの場合、その理由付けは間違っていて、問題は解決しない。
ものごころついたとき、その人が他人に好かれていて、うまくやっていけていれば、たとえ知的障害があったとしても、成り行きでうまくやっていけるようだ。問題は、そうじゃなかったときだ。自分は人に好かれていない。さてどうしたらよいか。この問題は知的障害がなかったとしても、相当な難問なのではないだろうか。