私は東南アジアのとある地域の研究者ですが、この概説書は画期的です。まずもって「この本のねらい」と「終章」が画期的でしょう。
他の地域と同様、ミャンマー(ビルマ)史が民族を単位として語られ始めたのは植民地時代以降のことではないかと思います。
それ以降、民族単位のビルマ前近代史観・歴史記述が当たり前であったにもかかわらず、独立以後の歴史記述はその足元のエスニックな状況が過小評価されている、記述対象になっていないと感じていました。
とくにビルマ近現代史研究は遅れているようです。その「民族」と「国民」を脱構築し、その大きな見取り図を提示している本格的な研究は現れていないと思います。
研究書レベルでもまだなされていないことを一足飛びに概説書でしてしまった、というのが正直な感想です。
また、大所帯でおのおのに性質の異なる分担執筆者を束ねて、これだけの大著に纏め上げた編者の力量は敬意に値します。たんに「束ねた」だけではなく、他者とのかかわりの中で育んでいく研究の実践、ということを感じました。
各執筆者の記述傾向の違いをあえて読者に晒して提示し、それをもってして、民族や歴史記述のもつ政治性を意識させる、そういった意味での「深い入門書」になりえています。