この日本盤のライナー・ノーツには、ベック自身のことばが紹介されています。「人生はダンスなんだよ。這うためにあるんじゃない。音楽はそれを高める作用があるんだ(後略)」。このことばの通り、『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』は、リズム&ブルースから、ソウル/ファンクを経て、エレクトロ、ハウス、ヒップホップに至る、アメリカ・ポピュラー音楽におけるダンス・ミュージック発展の歴史をすべて取り入れています。
そのため、『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』は、『メロウ・ゴールド』から『シー・チェンジ』までのベックのアルバムのなかでは、一般向けには、一番聴いていて楽しいアルバムになっていると考えられます。ホーン・アレンジが印象深いトラック1は、フジテレビ系『ジャンク・スポーツ』でも、イントロと歌の最初のほうとがテーマ曲として使用されています。
とはいえ、だからと言って、ただたんにダンス向きで楽しいだけではなく、世界各地の楽器の生音などをも取り入れたうえで、ベックの愛するアメリカの(リズム&)ブルースを感じさせるファンキー(=初期のブルース調を帯びた泥臭い感じ)な音に仕上がっています。そして、有機的な生演奏を前面に出し、コーラスと絡み合い最後に生々しく息切れまでして歌うソウル・チューン(にして実は『オディレイ』のアウトテイク)、トラック11「デボラ」でクール・ダウンして締め括るあたりも、いつもながらのベックの上品さをうかがわせて非常にいいです。日本盤ボーナス・トラック「アラビアン・ナイツ」は、ダンサブルなアルバム本編の流れとつながっていないこともないですけれど、『オディレイ』のノイズをまだ引きずっている感じです。