少し昔の話であるが、南アフリカで発見された最初の猿人(アウストラロピテクス)について、一人の人類学者が当時の学会を相手に、いかに戦い、自説を主張したのかについて、実に生々しい実話を交えて、率直に、分かりやすく、数多くの図版を提供しつつ、書かれた本である。
現時点でのミッシング・リンクは600万年以前に研究の方向が向いているようだが、86年ほど前の1925年には、人類学も現代程に専門化されていない時代であった。DNAによる鑑定が主流の現代とは違い、ハンマー片手にこつこつ石を割って、中に閉じ込められている化石人類を探し出すという、自然人類学では現代においても当たり前の研究方法が主体の時代である。研究者であるレイモンド・ダートの映画にもなった人生を、さらに具体的にあとずける事が出来る貴重な資料的価値のある一冊である。映画では少し割愛されていた当時の具体的な人間模様にも触れる事が出来て、何か、ある種の探偵小説を読み終えた後に味わう爽快感が味わえる。また、翻訳者は国立科学博物館で人類部長を勤めたこともあるこの道の超スペシャリスト山口 敏さんである。山口さん自身がこれまたこの本の主人公と同じような生き方をされており、いくつかある人類学に関する山口さんの翻訳本の中でも、きっと楽しく翻訳された本に違いないと思われる。