「本格探偵小説のあらゆるガジェットを投入」して、「完璧な」本格探偵小説が出来上がるのなら良いが、山田正紀の場合は当然そうはいかない。伝記ミステリーと、SFと、推理小説をキメラ的に融合することで出来上がったのは「本格探偵小説のごった煮SFスパイス和え」である。『ドグラ・マグラ』、『Yの悲劇』、『僧正殺人事件』、『黒死館殺人事件』、そして「加賀」警部補、「鬼が貫くとか、鬼の面、とかいふ意味合ひの、変つた名の警部」に加えて、「この世に不可能なことなど何もありません」という台詞など、古今東西の著名な推理小説のタイトルや台詞の引用を散りばめつつ物語は展開する。犯罪状況を構成するトリックは、文脈抜きに語ったならばあきれられること必至の、殆どが「掟破り」かあるいは「反則」すれすれであるのだが、しかしそれが物語の中では不思議に存在感を保つ。と言うのも物語全体が既に十分破天荒であるからだ。ジャンルを超越し、もはや「物語」とでも言うしかないストーリーが、昭和13年と平成元年の二つの時空において同時に進行する。そして「平行宇宙」論が時空の間隙を結ぶ。いまではその存在の可能性が当たり前のように語られる「平行宇宙」(または「分岐宇宙」)については、実は実在と認識の混同という致命的な欠陥が存在し、その点においてこの理論は成立しえないどころか根本において誤っていると思われるのだが、それはまた別の話である。ともかくも分裂した時空が重ね合わされるラストシーンは、一枚の風景画のように鮮やかである。