小説の舞台はパプア・ニューギニアに浮かぶ南の島、ブーゲンヴィル島である。1990年初頭ブーゲンヴィル島がパプア・ニューギニア政府によって封鎖された。独立抗争のため政府によって送り込まれたレッドスキン兵の荒々しい略奪と破壊に怯える日々を、感受性豊かで早熟な少女マティルダのモノローグで綴っていく。戦争が素朴な島の住民に残して行った爪痕はあまりにも大きかった。
私が願うもの?私は希望そのものがほしい。それも特別な形の希望。ピップの場合がそうだったように、状況は変わるものだという希望。(60p)
私はこれらの出来事を思い出すとき、何らかの感情に捕らわれることはもうない。あの日、私が感じる力を永遠に失ったとしたら、それは仕方のないことだった。感情は私からとりあげられた最後のものだった。鉛筆とカレンダーと靴に始まり、『大いなる遺産』の本、寝床のマット、家、ミスター・ワッツ、そして母さんを失くして、その後に残った最後の持ち物だった。
こんな思い出をもっているとき、人はいったいどうしたらいいんだろう。忘れたいと願うことは間違っているような気がする。だからきっと、人はそれを書き留めることをするのだろう。そこから歩きだすために。
(226p)
未開で素朴な島にやってきた風変わりでいわくありげな白人ミスター・ワッツ。彼は小学校にやってきて、ディケンズの『大いなる遺産』を生徒たちに読んで聞かせた。生まれてはじめて知る英国社会。最初はとまどっていた子供たちも次第に物語の人物、ピップに夢中になっていくが、そのことがきっかけになって・・。レッドスキン兵の暴力はある日唐突にマティルダの運命を変貌させる。それでも時間は彼女を癒し、少女を大人の女性へと成長させていく。