本書は『mit Tuba』で太宰賞を受賞した著者が
ある漁村を舞台に、新たに開設されたローカルラヂオ局で働く人々と
それを取り巻く漁村の人々を描いた著作。
本書で描かれるのは
とくに何があるわけでもない、小さな漁村
そして、そこで暮らす
本業のかたわら、ラジオ局を開局した社長
作家を夢見て小説を書く喫茶店のマスター
スナック経営、実業、歌手家などいくつもの顔を持つ中年男
何をするわけでもなく、だらだらと日々をすごす若者
痴話げんかで殴りあう女子高生
など、どこにでもありそうな日常。
しかし、本書が普通の物語と一線を画し
早川書房の新レーベル『想像力の文学』に収められている由縁、
それは本書の舞台が2050年である―ということです。
茫漠としたまま進むストーリーは、
終章「冬」で急転直下の展開を見せる。
半世紀先でも、今と変わらない日常があることへの奇異感と
人々のしたたかでしなやかに生きるさまへの安心感。
そして、なにより物語の躍動感・醍醐味を存分に堪能できる本作。
ありきたりな物語にはもう飽きた―
そんな方にこそ読んでいただきたい著作です。