本書が日本の政策問題を分析しているミクロ経済学の教科書であることを、yyasuda氏のブログで知り、買った。期待以上に面白かった。その理由は「理論の説明の分かりやすさ」と「理論の日本の政策への応用例の豊富さ」にある。
これまでいくつかのミクロ経済学の本を読んできたが、本書の理論の説明の分かりやすさには驚かされた。大学での講義がベースとなっているだけあって平易な言葉で書かれていてすらすら読める、ということもあるが、序論で「効率化」の概念を明確にした上で、政府の失敗と市場の失敗(政策が必要なのは主にこれらの是正のため)の例を与え、全体で分析しようとしている内容に関する明快な展望を与えていることが大きい。また、市場の失敗をまとめて論じているなど、章の配列が体系的だ。さらに、ある政策課題に対して、さまざまな角度からの対策を提供してくれるのがありがたい。例えば7章、8章、11章における外部不経済対策の説明では、首尾一貫して川の上流の企業が川の水を汚染し下流の企業に迷惑をかける例が論じられ、この問題に対応するための手段である数量規制、ピグー税、ピグー補助金、コースの定理、排出権取引が、どう関連し、どう異なるかが、一目でわかるようになっている。
しかし、本書の真骨頂は「理論の日本の政策への応用例の豊富さ」にあるだろう。3章を読むまでは、参入規制の結果、日本の地裁の裁判官は官庁の次官と同額の給料をもらっている、なんてことは知らなかった。また、10章のように、道路特定財源の存在理由の整理をしてくれているミクロ経済学の教科書が、今までどこにあっただろうか(いやない。多分)。書ききれないのであとはぜひ読んで欲しいが、日本の政策形成にも深く携わってきた著者が、自身の経験も含めて、理論の実際の日本の政策の応用例をいろいろと教えてくれる。それによって、説明された理論が「使えるものなんだ」ってことが実感できる。
特にこれから経済学を学ぶという人や、「経済学なんて使えないや」と思い込んでいる人は、ぜひ本書を読んで欲しい。きっと、目から鱗が落ち、本書で学んだ理論を現実の政策課題に対して適用してみたくなるんじゃないかな。
ところで、全体の中の前半部分である本書の分量は、「マンキューミクロ」の約3分の2、「クルーグマンミクロ」の3分の1だが、トピック的にはほぼ同一の内容をカバーしている。例えば、本書がカバーしているトピックは、「マンキューミクロ」の本体部分である15章までとほぼ同一だ(予告目次によると、『ミクロ経済学<2>』は混雑や格差問題のような応用的問題に焦点を当てているようだ。そちらも楽しみ)。従って、『ミクロ経済学<1>』だけで十分「マンキューミクロ」や「クルーグマンミクロ」の本体部分をカバーしていると言える。
『ミクロ経済学<1>』が、日本の政策問題を分析していて、かつ説明が体系的でわかりやすいことを考えると、ミクロ経済学をはじめて学ぶ人にとって、この本の読書時間当たりパフォーマンスは、「マンキューミクロ」や「クルーグマンミクロ」と比べてかなり高いと思う。