普段私はマンガを殆ど読みません。話が誇張され過ぎる上に、目が疲れるからです。しかし本書には正直驚きました。単に金正日の人物像だけでなく、北朝鮮の現状や歴史を非常に詳細かつ客観的に記しており、感心させられます。またマンガ故に通常の専門書では理解しづらい内容もよく理解できます。狡猾さと惰性を併せ持つ人物像や、呉振宇を初めとする軍人脈との関係などは、マンガ故に理解し易いと思います。
正直言ってこの21世紀に北朝鮮のような国が存在すること自体、信じられません。国家に最低限必要な条件は、国民の生命の安全を保障し、最低限の生活を保障することですが、北朝鮮はこの基本的条件すら守っていないからです。金日成銅像や主体思想塔、人民大学習堂などの無駄な施設の建設に巨費を投じ、生誕祭では賄賂や思想学習のために民衆を動員する。順川ビナロン工場や沙里院カリ肥料工場建設のように、極端な精神主義を全てに優先させ、次々に失敗を繰り返す。喜び組や秘密パーティーのように、民衆とは乖離した奢侈を繰り広げる。対南工作向け自爆部隊の養成のように、人命を軽視して忠誠心を植え付ける。こうした独裁国家特有の悪癖が北朝鮮国民の生活基盤の崩壊と深刻な飢餓につながり、さらには「党優先」から「軍優先」へとシフトするまでの軌跡が、一漫画家の手で丁寧にまとめられていると思います。
金正日が指導者の地位を放棄しない限り、民主化も経済再生も到底あり得ません。2002年から開始された「経済改革」がよく話題になりますが、大量の餓死者を生み出した張本人が経済を再生するなど、あり得ないことは自明です。しかし日本にも韓国にも、金正日に同調する人間があまりに多い。こうした現実認識の妨げが、北朝鮮での人権蹂躙を手助けし、本書を韓国で発売禁止にさせたことは間違いありません。