24時間営業の高級スーパーマーケット、“マルシェ・アンジュール”。
洒落た造りの建物、きらびやかで生活感のない店内。
インテリアや商品の配置も凝っていて輸入品も多く取りそろえている、
まるで食料品のセレクトショップとでも呼びたいような趣きの店だ。
店の一角には洒落たデリカテッセンもある。
そんなマルシェ・アンジュールを背景に、六人の日常と心模様をすくいとった短篇集。
うまくいかない現実の成り行きに心が萎える日。
少しだけ日常を離れたいとき。
相手との距離を測りかねる恋のシーソーめいたときめき。
失恋の痛みを救うかのような十年前の約束。等々……。
……立場も、年齢も違う男女のある日、ある時。
日々を生きることにつきまとうあれこれが、まるで「アートギャラリー」のような
マルシェ・アンジュールの店内に重ねられた時、少し意味を変える。
美しい野菜や果物、洒落たお菓子やデリカのメニューに、心休められ
いっときの安息を感じたりする。
このきらびやかな非日常のイメージを繰り広げる店内と、屈託や不安を抱える
人々の心象が絶妙のバランスで配されている。
日々に終わりはなく、とらわれた心はすぐにほどけるはずもないけれど、
いっときの、美味しい食べものへの気持ちの傾きは、人をほっとさせるものだ。
その一瞬がリアルで、読み手を共感させる作品だ。
いちばん好きな章は、「記憶」。せつなかった。
三歳の傑くんが玉葱の前でかたまるようすが、ものすごく印象的。
そして、最終章、「聖夜」の二人に幸あれと願いながら、本を閉じた。