前書きによると、この本はマルクス経済学への特徴的な入門と、同時に現代経済学へ
のモダンな入門を目指した本ということです。
稲葉振一郎氏が松尾匡と吉原直毅の両氏に話を聞くというかたちで、マルクス経済学
の「解体と再生」の話、マルクス的「搾取と不平等」の話、ローマーを中心にした
「公正と正義」の話が語られます。
話の途中途中に、話し手の皆さんが学生時代からどういうスタンスで、どういう風に
勉強したかが、ざっくばらんに話されます。若い読者には特に刺激的だと思います。
話題の中心は、現代社会批判のキー概念としての、マルクス搾取概念の検討だと思
います。ここでは吉原氏の語るマルクス基本定理批判が面白いです。
生労働が剰余価値を生むというマルクス経済学の基本概念が俎上にのせられています。
吉原氏によれば、労働が剰余価値の唯ひとつの形成者だという従来からの理解は誤りで
あり、基本財であれば、バナナでも石油でも、あらゆる商品が剰余を生むのであり、
したがって労働は唯一の利潤の源泉ではなく、現代における労働搾取は従来とは別の
観点で位置付けられねばならない。
こうした論点が最も面白いと思われる本でです。
この「一般的商品搾取定理」ははじめアメリカのS.ボウルズとH.ギンティスによって
証明されたもので、吉原氏も彼らに依拠しているようですが、ボウルズたちの証明には、
論理的な誤りないし解釈の誤りがあるように思われます。
したがって、この定理に依拠して展開される吉原氏の厚生理論が、成り立つものなのか
が問題になるものと予想されます。