著者の一人であるブルスはポーランド出身の経済学者で、1960年代当初に「規制された市場メカニズムを組み込んだ計画経済モデル」を提唱し、多くの社会主義者の関心を集めた。やがてそのモデルはハンガリーの経済改革で現実化し、いわゆる「集権化モデル」の否定的現象を克服しうる「分権化モデル」としてその実践的作動可能性が注目された。本書はそうした著者の社会主義経済論の理論的変遷を十分に伺うことができ、最終的に当時のモデルを「欠陥のあるモデル」として放棄しなければならなかった著者自身の理論的自省が全体を通じて明快に描かれている。特に本書における最も重要な章は、私見では第7章であり、この章を通じて、なぜ自ら提案したモデルが当初期待された成果をあげることができなかったのかが理論的に考察されている。市場の動態性を生み出す「資本市場」(ならびに労働市場)を組み込めなかったこと(社会主義の定義からして、この市場だけは容認しえなかった)がその基本的理由であるとされている。ソ連邦崩壊以降の新たな社会主義経済モデルの提唱者の多くは、社会主義的な資本市場を考案しつつ、ブルスの総括を乗り越える積極的な議論を展開しており、それらの動向にも注目してゆきたい(例えば、ジョン・ローマーら分析的マルクス主義者の青写真)。なおブルスの邦訳は、本書以外にも『社会主義経済の機能モデル』、『社会主義における政治と経済』、『東欧経済史』などがあるが、著者本人からの手紙によれば、本書を最も推奨したいとのことである。一読を薦めたい。