これはスゴイ本だ。キュリー夫人なんて大昔から評価の定まった偉人のはずだが、この本は長年かけて積もった伝説の殻を、見事にきれいにはがしてみせる。マリー・キュリーは戦場を駆け巡る政治的闘志であり、だんなの死後、教え子と不倫する恋多き女であり、放射能の恐るべき害を認めない頑迷固陋さもある。
面白いのは、そういう人間くさいマリーが、読むにつれてますます魅力的に見えてくることだ。ご本人は三姉妹の中でたいした美人ではないと思っていたらしいけど、今の目で見ると十分美しい。著者は、女の美人・不美人はその人の人生を決めるところがあり、それは最先端の科学の世界でも変わらない、という。こういう当たり前のことを、ぜんぜんイヤミなくはっきり書ける学者は珍しいんじゃないだろうか。
2人の日本人研究者が登場するが、放射能のために妻と子を残し31歳で死んだ山田延男も、パリで研究し続けて死んだ湯浅年子も、一度読むと忘れられない。内容も斬新だが文章も流麗で、読んでいてぐんぐん引き込まれた。