本作はいまや百合ものの代表格のように扱われている。実際、『黄薔薇革命』のあとがきで著者は「ソフトだけど百合」とのレビューを好意的に評価しているし、雑誌の百合もの特集では必ずといっていいほど表紙を飾る。
しかし、実は百合でもなんでもなく、中身はどこにでもありそうな学園コメディである。「薔薇さま」「姉妹制度」といった独特の設定のせいで好奇の目で見られることがしばしばあるが、本質的には“人と人との信頼関係”とか、“家族のような人間関係”といったものを築いていく、そういう話である。
だいたい、百合ものにありがちな、他人に理解されないゆえに二人だけの世界に閉じこもっていく、といった話は長いシリーズの中で1回きり(『いばらの森』)しかないし、ましてや、一部の男性が想像するようないかがわしい話(これは初巻の案内文がよくない!)は全くない。
その問題の「姉妹(スール souers)制度」だが、「姉が妹を指導する」というタテマエよりは、むしろ、結婚とか家族とかの疑似体験というニュアンスが、回を追うごとに強くなっていく。自分も相手も女性なのでお互い共通の思考回路を持っている(と期待する)し、家庭は学校とは関係なく従来どおりだから、実際の結婚のようなさまざまなリスクを避けながら結婚気分を味わえる、というのが種明かしである。
これについては特に、文庫のシリーズが始まる前に雑誌に掲載された作品(『チェリーブロッサム』所収)の「一人のお姉さまに対して、妹になれるのは一人きり。一対一の関係ですから、契りを交わしたことで、一番親しい間柄だと認めてもらえるわけです。他の方々だって遠慮なさるような、ステディな関係、とでも申しましょうか」という言い回しに注目していただきたい。それに加えて、『妹オーディション』あたりを読めばはっきりするだろう。
さて、この巻では、学園祭前日、たそがれた祥子が古い温室で祐巳とともにたたずむシーンが、淡々としていながら、深い人間関係が読み取れて味わい深い。このあと巻を追うごとに人間関係が緻密になっていくので、心のアンテナが少しでも反応した(笑)人は続刊をお勧めしたい。