16〜17世紀の南米大陸でかように過酷で苛烈なユダヤ狩りがおこなわれていたとは知らなかった。本書の主人公であるフランシスコ・マルドナド・ダ・シルバは実在の人物であり、彼はユダヤ人としての誇りを捨てず、異端審問という名の残虐きわまりない迫害に一人抵抗し殉教していった信念の人だった。同じくユダヤ教徒として異端審問にかけられ、不具として一生を終えた父の『わたしが歩んできた不幸な人生を繰り返すようなことはしないでくれよ』という言葉は、彼の信念を変えることはなかった。
どうしてそこまで拘るのか?アイデンティティの問題だとしてもどうして自ら茨の道を選んでゆくのか?宗教を信じないぼくにとってフランシスコの選んだ道は理解に苦しむものなのだが、そんなぼくでさえ彼の姿を追うごとにその精神の崇高さに感動せざるを得なかった。
本書はそのフランシスコの生涯をなぞって描かれる。だが秀逸なのは、子ども時代から描かれる彼の人生の合間に、異端者として捕らえ重大な局面を迎える三十五歳の彼の姿が挿入され、それがラストに向かって見事に集約されていく構成だ。それはジワジワと終末に向かっていくような異様な迫力を与え、読む者に戦慄をもよおす。
ただ自由でありたいがために、己の信念を貫いた男の壮絶な生涯。上下二段組で500ページ強というボリュームは、この一人の男の清冽でまっすぐで崇高な姿をあますことなく描ききっている。読んでよかったと心から思える本だった。傑作です。