誰もが心やさしくなるクリスマス。そんな雰囲気の中、劇団のボス、カー
ミット(声:スティーブ・ホイットモア)だけは、失意のどん底にあった。ビタ
ーマン銀行からの借金を期限までに返すことができずに、自分の命とも
いえるマペット劇場を手放さなくてはならなくなったからだ。静かに雪の
降る中、カーミットは、一人ベンチに座り、「自分など生まれてこなけれ
ば良かった」と呟く。すると、天使であるダニエル(デヴィッド・アークエッ
ト)が現れ…。
2003年11月29日に、米NBCネットワークで放映されたジム・ヘンソン・
プロダクションズ製作のTVフィーチャー。クレジットのどこにも記されて
いないが(“based on”はおろか、”inspired by”すらない! )、フランク・
キャプラの傑作『
素晴らしき哉、人生〈特別版〉 [DVD]』のリメイクだ。カ
ーミット、ミス・ピギーを始め、おなじみのマペットたちが総出演している。
ウーピー・ゴールドバーグの神様を始め、スターたちのカメオ出演、
『
ムーラン・ルージュ [Blu-ray]』などのパロディも楽しいところ。
すでに、TVフィーチャー『クリスマスの出来事』(1977)としてリメイクされ
ているし(キャプラ自身も、80年代半ばに、続編TVフィーチャー”It’s Still
a Wonderful Life!”の脚本を書こうと試みたこともあるそうだ)、『
バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2 【Blu-ray ベスト・ライブラリー100】』
や『
スポーン [DVD]』などで、オマージュやパロディとしても再三登場し
ているとはいえ、『素晴らしき哉、人生!』が、こういった形で蘇ったこと
が大きな驚きだ。もっとも、『セサミ・ストリート』の登場人物であるバート
とアーニーが、『素晴らしき哉、人生!』の登場人物の名前からつけられ
ているところからも、ジム・ヘンソン(とクルー)は、生前から同作品への並
々ならぬ愛着を持っていたのかもしれない。
無許諾リメイク(翻案とは言えないだろう)ということに、大丈夫なのだろう
か?といらぬ心配を抱きつつも、やはり、アルバート・ハケット=フランセ
ス・グッドリッチ・コンビによる脚本の素晴らしさを再確認させられる。時
代を経ようとも、良い脚本は、決して古びないし、むしろ、常に新しい形
で生命を吹き込まれるということを示した好例だ。元々が、ファンタジッ
クな要素を含んだ脚本なので、まさに、マペットの世界にはうってつけ。
ハケット=グッドリッチの脚本がマペット劇に見事に溶け込み、全く違和
感がない。
基本的に、マペットの中に入れられた腕だけの操作で、キャラクターたち
の感情表現がされるのだが、とても腕だけとは信じられない、豊かで、
繊細な表現力は、ジム・ヘンソン(以下クルーによって受け継がれた)の
長年のノウハウがあってのことだろう。カーミットが、失意に沈む表情な
どは、哀感に満ちて、思わず涙を誘われる。そこには、間違いなくカー
ミットの実体がいる。決して、緑のフェルト生地に、ピンポン玉の目をつ
けられた人形ではない。本家のジェームズ・スチュアートに比肩すると
いうのは言い過ぎにしても、カーミットにもきちんとエモーションが宿って
いるのは確かだ。
マペットたちに埋もれることなく、俳優たちも頑張っているのが嬉しい。
特に、ジョーン・キューザックの金がすべての資本主義の塊のような銀
行家は、全く人間的やさしさのない女性で(本家のライオネル・バリモア
も最後まで、嫌な奴だったが)、ここまでやると、却って潔くておかしい。
コメディエンヌ、キューザックの本領発揮といったところだ。
本DVDは、2002年の作品ということで、メリハリの効いた色調(暗い場
面が多いにもかかわらず)で、画質は良好。CM入り、明けはフェードア
ウト、フェードインで処理されている。音声も問題ない。日本語吹替えも
収録。特典にはNG集が収録(ただし、NGを「演じている」NG集)。加え
て、MGM/UAの他作品の予告編集も収録。