アルフレッド=マハン(1840-1914)は、アメリカ海軍軍人にして、地政学の2大潮流の1つ「シーパワー」の概念を生み出した人物である。シーパワーとは世界情勢に大きな影響を与える要素として海に主眼を置く考え方である。極論すれば、海を制するものが世界を制する、である。
シーパワーは、海上戦史を研究・講義する中で生まれ、本書「海上権力史論(邦題)」(1890年)で世界的に注目された。その影響はパナマ運河開通後のアメリカ、日本海軍、イギリス、旧ソ連などへと受け継がれ、現代でもチャイナ、ロシアが強力に推進しようとしている海洋政策の元になっている。
シーパワーは平時における海上通商(経済)と、そのシーレーンを安全に保つ海軍力で構成される。海軍の存在意義とは海上通商の保護のためであるとマハンは言う。シーパワーを保持するためには、戦略的に本国の態勢・生産地と消費地を結ぶシーレーン・シーレーン途中の(補給)基地の3つが必要であるとする論は現在においてますます重要性を増している。
マハンの地政学が誤解を招きやすいのは、日本で出版された際に、翻訳に日本海軍が絡んでいたことや、本書の原題「歴史に及ぼしたシーパワーの影響」のタイトルを大幅に変え、軍備拡張の世論形成に利用したものによるものだろう。本書を読んでも、海軍力を増強して侵略戦争を起こすなどとは一言も述べていない。
本書は1660年からのイギリスとフランスの度重なる戦争から1783年のアメリカ独立戦争までのシーパワーを分析しているため、時代背景が分からないと読みにくい。第1章の戦略論を検証するために、第2章以降の戦略分析があるという構成のため、第1章だけ読んでも概略は把握できるだろう。
古典ではあるが、マハン自身も戦術は技術の発展によって、戦略よりも迅速に変化することを敢えて記述している。この本で海戦の戦術が分かるというものではない。戦術については、過去の戦史を真摯に振り返り、現在の技術と彼我分析により決定されるものであるのだろう。