原作を同じくしたオペラならプッチーニ作のほうが知名度は高いのかもしれませんが、こちらのマスネ作もどうして負けない傑作です。
出会ってしまったことが全ての始まり。美女マノンと騎士デ・グリュ―の波乱の恋の物語ですが、プッチーニ版が文字通りこの世の果てまで疾走して燃え尽きる熱い恋の物語ならば、マスネ版のこちらで描かれるのは甘い耽溺。溺れる恋の物語です。
ここでのマノンはより蠱惑的な『運命の女』として描かれ、デ・グリュ―はそんな彼女に魅了されつつも、愛とモラルの狭間で揺らぎます。ここでのふたりは(プッチーニ版のふたりのように)ただ情熱に一途になることはできません。それでもふたりは魅かれあわずにいられないのです。溺れずにはいられない、故に悩むのです。愛に伴う懊悩。このメランコリーがプッチーニ版とマスネ版との違いでしょうか。悩み苦しむその分だけ、愛は深みを増すのです。
歌が特に素晴らしい。気だるい雰囲気をたたえた『運命の女』マノンのルネ・フレミング。デ・グリュ―役のマルセロ・アルバレス。どちらも芯のある堂々たる歌いぶりで迫力は充分。脇ではギヨー役のミシェル・セネシャルが個性的でいい味だしてます。
演出もかなり良質。セットを最小限にして闇を基調にし、登場人物にスポットを当てた手法は、シンプルながらなかなかの効果が出ています。衣装が豪華なのも見どころかと。
余裕がありましたら、
プッチーニ:歌劇《マノン・レスコー》ミラノ・スカラ座1998年 [DVD]も同時に発売しているので、こちらも合わせて観るのもお勧め。合唱の使い方や、バレエシーンの有無、何よりストーリーの展開など、違いを比較するのも一興です。
そもそもマスネという作曲家自体が知名度が低いようですが、もっと評価されてしかるべきだとおもいます。「
マスネ:歌劇《ヴェルテル》ウィーン国立歌劇場2005年 [DVD]」、「
マスネ 歌劇《タイス》フェニーチェ歌劇場 2002年 [DVD]」など、かなりの傑作です。是非ご鑑賞を。