映画「コレクター」の原作者ジョン・ファウルズの大作であります。もっと知られていてもいいはずなのになぜかあまり人気がないようです。あらすじはいうと、芥川の「藪の中」を思い出して頂くとよいでしょう。これが18世紀イギリスにおいて展開されるわけです。ある高名な貴族の子弟の神隠しという謎に様々な証言・当時の新聞記事などからじわじわと真相に迫るミステリ仕立てとなっています。中井英夫の『虚無への供物』などが好きな人にはお勧めしたい。途中SF的ひねりがあったりして、形式はいかにも「ポストモダン」といった風ですが、それよりも読後にズウンとくる倫理感みたいなものが印象的です。著者の思想的背景にある実存主義の影が感ぜられましょう。「真実」の解釈は人それぞれでしょう。私は(宗教に縁遠いとはいえ)、主人公であるシェーカー派の開祖アン・リーの母の姿に宗教心の何たるかを見た気がしました。邦訳は手に入りにくいですが他の作品もお勧めします。