「ダ・ヴィンチ・コードのタネ本!」とオビで堂々とうたっている通り、この本はダ・ヴィンチ・コードの本文中にも参考文献として紹介されている、マニアの間では非常に有名な本である(アメリカやヨーロッパなどのキリスト教国ではかなり売れたらしい)。残念なことに日本語では未訳だったので、今回の邦訳版発売は、マニアとして非常に喜ばしいことである。
ダ・ヴィンチ・コードの読者ならば誰でも気づくことだが、ダ・ヴィンチ・コードの謎の核心部分を握る人物は、レオナルド・ダ・ヴィンチではなく(彼はほとんど脇役にすぎない)、マグダラのマリアという女性である。この人物は新約聖書の中に登場する女性であり、一般のキリスト教徒の間では「娼婦」として解釈されている人物である。罪深き娼婦でありながら、その罪をキリストによって許された女性、それがマグダラのマリアであるとされてきた。しかし最近になって、彼女は実際には「キリストの結婚相手」だったのではないかと考えるようになった研究者が何人か登場する。本書の著者マーガレット・スターバードもその一人であり、彼女の著作はキリスト教社会に衝撃をもたらす結果となった。
キリストの子を身ごもったマグダラのマリアが迫害を逃れ、エジプトのアレクサンドリアに移り、そこからさらに南フランスへと逃げ延びた…。そのキリストの血を受けた子の伝承が次第に形を変え、キリストの血を受けた杯――聖杯――の伝説へと変容していく…。
古代から伝わる様々な民間伝承などをもとに真実を再構築しようとする著者の真摯な姿勢には、思わず心うたれるものがある。同時にキリスト教社会が隠蔽しようとしてきた二千年来の謎を、現代の女探偵が解き明かしていくようなミステリー小説の醍醐味も味わえる(通常のミステリーよりもはるかに高等だが)。タロットカードには、中世のキリスト教異端派(マグダラのマリア崇拝の伝統を受け継ぐ)に対する宗教弾圧の構図が秘められているとする、著者の「暗号解読」も十分に説得力のあるものだ。その他にもキリスト教および中世美術に関するウンチクが満載の一冊。歴史ミステリーマニアにはぜひともオススメだ!