開演前の武道館に艦長の声が響く。
「復唱せよ!」「銀河の果てまで」「復唱せよ!」「キラッ☆!?」「復唱せよ!」「私の歌を聞け〜!」
初っ端からつかみはOKの盛り上がりぶり。
マクロスFが幸運だったのは、中島愛(めぐみ)とMay'n(メイン)という当時19才のふたりの歌手を得たことだ。無名の若い女の子が歌で人気者になっていく。アニメの中のランカのエピソードそのままに、現実でも二人の女の子の歌にスポットが当たる。
二人にとっても、めったにない幸運だ。河森監督と菅野よう子が組んだアニメに登場する二人の歌姫になぞらえて売出してもらえるんだから。もともと歌の上手いふたりだった。だから幸運がすべてではない。もらったチャンスをものにして頑張ったからこそ今の人気がある。しかし武道館を埋め尽くす一万人の観客の前に、若冠19才の女の子を立たせるのは、かなり酷なことなのではないか?そういう不安を抱きつつコンサートを見始めた。
最初は心細げだったふたりが場所に慣れていく。自分の歌が観客に届き、声援をもらい、自信を得て、声と表情が確かなものになっていく。だんだん自由に歌えるようになる。やがてふたりが会場をリードし始める。ふたりの肌に汗がにじんでキラキラと光っている。若いふたりが一生懸命に歌っている姿はそれだけでとてもきれいだ。しかも曲は菅野よう子だ。無駄な弾はひとつもない。菅野さん自らキーボードを叩き、ピアノを響かせ、ふたりをバックアップする。会場のペンライトが光の海にように、音にあわせて揺れて、リズムを刻む。
ディスクの音声はかなり加工してあって、歌がきれいに聞こえるように雑音がカットしてある。拍手や掛け声が効果的と思われる部分だけ残してある感じ。だからディスクで見るふたりの歌は完璧ではない。当たり前だ。すごい声援と反響で自分の声もよく聞こえない場面もあるはずだ。そしてファンの声援で盛り上がった場面で歌だけ切り取られても、その場の雰囲気とはちがったものになってしまう。
このふたりはかわいいばかりではない。ディスクの映像は細かい表情まで全部映し出す。目が不安に泳いでいたのは最初だけ。やがて演じるようになり、いろんなことを考えているような目になっていく。菅野さんのコンサートはサービス満点で、アンコールがこれでもか、というくらい次々繰り出される。ふたりに知らされていないサプライズゲストが応援にかけつける場面もあった。オトナ達はこのふたりを泣かせようと画策していたんじゃないだろうか。新人歌手が舞台の上で恩人に花束をもらって泣くのは大昔からのお約束だ。だが、ふたりは泣かなかった。愛ちゃんは涙ぐんでいたが、立ち直ってしまった。メインちゃんにいたってはにこにこと笑っていた。オトナ達が負けた瞬間であった。そして最後の最後は菅野さんのピアノで静かに終わった。
この映像は二人の女の子が武道館で歌って、変わっていく様子を見るためのドキュメンタリーなんだろうと思う。そういう意味では、こんなサービスめったにできない、二度とできない、貴重な映像と言えるだろう。マクロスFのファンなら必見。