昔の人であれ今の人であれ、人間の内面や本性といったものはさほど変わりはしないので、ルネッサンス期イタリアのマキアヴェリによる権力への考察は、それが「人間」なるものの本質に肉薄しているが故に、現代の日本人にも説得力をもって語りかけてきます。
他方、「君主論」は当時のイタリアを中心とする国内的・国際的な権力闘争に対する観察によって生を受けた著作であり、具体的な時代背景の産物であることは間違いありません。そうした意味において、マキアヴェリのアプローチの妥当性やその限界を知るためには、彼の生きた時代のイタリアが置かれた戦略環境やフィレンツェ内外における権力闘争といった事柄を理解することが必要になります。
そこで本書では、前半部分でマキアヴェリの生涯を通じて「君主論」の背景となる時代状況を解説し、後半部分に「君主論」そのものの邦訳を収めるという形になっており、背景を含めたマキアヴェリ政治思想全体への理解の下、「君主論」に対する深い理解が得られるよう工夫がなされています。本文中の注という形で背景等を加えるよりも、読み易く、また総合的に理解できるのではないでしょうか。
「君主論」は「権謀術数」の教科書のように理解される向きが強く、甚だしきに至っては商戦や経営の観点から解説がなされたりすることさえありますが、本書を読めば、そうした理解が如何に皮相的なものであるか、自ら見えてこようかと思います。